白描画は、墨の筆線だけを主体として描かれた絵画を指します。
墨を面的に使用し、暈かしで濃淡・明暗を表現する「水墨画」とは、
この点で区別されます。
白描画には彩色を施す前の下絵、粉本と呼ばれる転写、素描なども
含まれます。しかし西洋画におけるデッサンとは異なり、筆線そのものの
表現力(骨法用筆)を鑑賞する所にその特質があります。中国では
古く「白画」とよばれ、唐の呉道玄(ごどうげん)によって完成されたのち、
北宋末には李公麟(りこうりん)によって復興されました。
日本においても『麻布菩薩像(まふぼさつ)』、『鳥獣人物戯画』
『隆房卿艶詞絵巻(たかふさきょうつやことばえまき)』『枕草子絵巻』などの作品が知られています。
源氏物語では、室町時代の白描絵巻が十数点確認されています。中でも、
奈良慶福院の尼門跡(あまもんぜき)・花屋玉栄(かおくぎょくえい)
(1526~1602年以降)による「白描源氏物語絵巻」は、源氏研究が
男性貴族に独占されていた時代に、女性による女性のための解説書
として貴重な作品です。
この伝統の上に、江戸時代のベストセラー『絵入源氏物語』(1650年)が
生み出され、源氏物語の読者は庶民・女性にも広がって
いきました。安沢阿弥画伯が、古式ゆかしく新たな精神で甦らせた、
平成の白描源氏絵巻を、どうぞ心ゆくまでご堪能ください。