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【62】鏡餅に願いを


今回は平安時代にもあった鏡餅のお話です。



◆六条院の新春


「初音」の巻では元日の六条院が描かれます。
光源氏は妻たちのもとを順番に訪問しますが、
その順番が妻としてのランキングをあらわすことになっていて、
一夫多妻の残酷さを見るような気がします。

それはさておき、
最初に訪れた紫の上の春の御殿には
鏡餅が供えてありました。

現在の鏡餅のように丸い餅を重ねたもので
文中には「餅鏡(もちいかがみ)」とあります。
丸い鏡は古来ご神体にされるほど神聖なものであり、
餅は生命力の象徴でもあります。

源氏が訪れたのは女房たちがくつろいでふざけあっているさなか。
あわてて取り繕いながら、中将の君と呼ばれる女房が
このように言います。



「かねてぞ見ゆる」などこそ 鏡の影にも語らひ侍りつれ
わたくしの祈りはいかばかりの事をか


「かねてぞ見ゆる」と鏡餅に話しかけておりました
個人的なお祈りのほうはどれくらいのことでもありません
鏡餅に向かって大伴黒主(おおとものくろぬし)の
寿ぎの和歌を読み上げていたのです。
天皇の御代が長くつづくことを祈り、さらに
個人的な願いも叶うように、鏡餅に話しかけたのですね。


◆正月はふざけるもの?


源氏は女房たちがふざけているのをうらやましいと感じ、
自分自身も「乱れたること少しうちまぜつゝ」、つまり
みだらな言葉を少し入れて祝いの言葉を言ったとあります。

源氏も女房たちも
元日早々エロティックなことを言ってふざけていたのです。

これは源氏邸のみの特殊例ではなくて、
元日の約束事だったと考えられます。

元日に性的な所作を行ってその年の豊穣を祈願するならわしがあり、
一部の農村では戦前くらいまで、家の主、もしくは夫婦が
裸で柱の周りを回るなどして豊作を祈っていました。

言葉に霊力があると信じられていましたから、
所作の代わりに「みだらな言葉」を使っても
同じ効力があると考えられたのでしょう。

源氏たちの「祝い」もその名残り。
実際には農耕を行わない階級の人々が
農耕儀礼に起源を持つ風習を守っていたことになりますが、
宮中で天皇が行うさまざまな儀礼にも
農耕儀礼が多く含まれます。

物語中のさわぎは、
ふだん口にしない言葉で鏡餅に祈っていた女房たちが
つい羽目をはずしてしまったからでした。
しかしそのルーツは、とても神聖なものだったわけです。