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源氏物語【15】平安朝の文学〈前〉

【15】平安朝の文学〈前〉


源氏のあとさき〈前〉

今回は源氏物語の時代の文学について。


◆作り物語

『源氏物語』や『枕草子』に言及されている物語は
主に作り物語と歌物語です。
作り物語は事実にもとづかない創作物語、つまりフィクション。
前編ではその代表的な四作を紹介します。



◎《竹取物語》1巻 作者不詳・10世紀初頭成立?


かぐや姫でおなじみの『竹取物語』です。
『源氏物語』の「絵合(えあわせ)」の巻に
「物語のいできはじめの祖(おや)なる『竹取の翁』」と
書かれているとおり、現存する日本最古の物語です。

おとぎ話ふうの軽妙な展開、
月から迎えが来るという宇宙的スケール、
貴族男性たちの風刺的な描写など
現代の感覚で読んでも面白い物語です。



◎《うつほ物語》20巻 作者不詳・10世紀末成立


「絵合」の巻に『宇津保の俊蔭(うつほのとしかげ)』とあるのは
『源氏物語』以前の長篇『うつほ物語』のこと。

若き秀才清原俊蔭は遣唐使に選ばれ唐に向かいますが、
流され流されて波斯国(はしこく)にまで行ってしまいます。
波斯とはペルシァを指すと思われます。

放浪の後、俊蔭は鬼神に出会って秘琴(ひきん)を手に入れ、
23年ぶりに帰国。その後結婚して娘をもうけます。

俊蔭が亡くなると娘は生活の術を失い、
息子仲忠(なかただ)を連れて山で暮らし始めます。
熊が木の空洞(うつほ)を譲ってくれ、
猿たちが木の実などの食料を運んできてくれます。

ここまでは奇想天外、悪くいえば荒唐無稽なファンタジー。
ところが仲忠が成長すると、
彼を主役とした王朝恋物語に転じていきます。


清少納言は仲忠のファンだったらしく、
『枕草子』の中で熱心にその魅力を語っています(八十三段)。

後半で筋が錯綜してわかりにくくなりますが、
年中行事や日常生活の描写が細かく、
平安貴族の暮らし、文化を知るには好都合です。



◎《住吉物語》2巻 作者不詳・10世紀末成立


日本最古の継子いじめ物語といわれ、
『源氏物語』の玉鬘(たまかずら)に影響を与えたとされる作品。

某中納言の姫君が母親を亡くし、
中納言のもう一人の妻のもとに引き取られます。
やがて四位の少将という求婚者が現われると
継母は妨害に奔走し、さまざまな策を弄して
自分の産んだ娘と結婚させてしまいます。

姫君は住吉に隠れ住みますが、真相を知った少将に探し出され、
都に戻って幸福に暮らします。


実母が死んでしまうこと、継母には数人の娘があること、
高貴な求婚者が現われること、ヒロインに忠実な協力者がいること、
継母が次々と策略をめぐらして継子を差別すること、
最後は幸福な結婚をし、継母は落ちぶれること、
といった継子いじめ物語の要素がすべて揃っています。



◎《落窪物語》4巻 作者不詳・10世紀末成立

これも継子いじめ物語。
こちらは継母が姫君を部屋に閉じ込めてしまい、
典薬の助(てんやくのすけ)に操を奪わせようとするという
とんでもないシーンが出てきます。

ほかにも読者をはらはらさせる仕掛けが多く、
物語としての面白さは『住吉』以上。
しかし良家の子女が読むにはふさわしくないと考えられたらしく、
あまり普及しなかったようです。


「蛍」に源氏が「継母の腹ぎたなき昔物語も多かるを」といって
幼い姫君に与える物語を厳選させる場面があり、
ひょっとして『落窪』のことかとも思います。